Alibabaが2026年8月20日に発表した4〜6月期決算は、いまのAI競争を象徴するような内容でした。
AI Cloud and Compute Servicesの売上高は前年同期比45%増の484億3700万元(約1兆1450億円)。一方、全社の純利益は75%減の104億4400万元(約2470億円)まで落ち込みました。
さらに設備投資は676億7800万元(約1兆6000億円)と75%増えています。
数字だけを見ると、「AIは伸びているのに、AI投資で利益が消えた」と見えます。
しかしAlibabaの公式決算資料を詳しく見ると、実態はもう少し複雑です。クラウド事業自体は利益を伸ばしており、純利益減少には投資損益やのれんの減損なども影響しています。
今回の決算で重要なのは、「AIは儲からない」という話ではありません。
AIによって利益を伸ばしている事業と、将来のために巨額の資金を使っている事業が、同時に存在していることです。
※日本円は1元=約23.65円で概算しています。
45%成長したAIクラウド
Alibabaは今期から、クラウド部門と半導体設計のT-Headを「AI Cloud and Compute Services」としてまとめています。
同部門の売上高は484億3700万元(約1兆1450億円)で、前年同期比45%増。
AI関連製品の売上高も123億7600万元(約2930億円)に達し、12四半期連続で3桁成長を続けたとしています。
しかも伸びたのは売上だけではありません。
調整後EBITAは56億2800万元(約1330億円)で、前年同期の24億1900万元から133%増加しました。
つまり、計算資源を企業に提供するクラウド事業そのものは、すでに収益性を改善しています。
「AIクラウドが45%伸びたのに全社利益が75%減った」という数字だけで、クラウド事業まで赤字化していると見るのは誤りです。
約1.6兆円まで膨らんだ設備投資

一方で、AIを支えるための投資額は非常に大きくなっています。
4〜6月期の設備投資は676億7800万元(約1兆6000億円)。前年同期の386億7600万元から75%増えました。
Alibabaは、AI需要に対応するための計算能力増強や半導体部品価格の上昇などを主な理由として挙げています。
興味深いのは、この四半期の設備投資額が、AI Cloud and Compute Servicesの売上高を上回っていることです。
もちろん設備は複数年にわたって使われるため、単純に売上と比較して赤字とは言えません。
ただ、AI事業では需要が本格化する前から、サーバーや半導体、ネットワーク、データセンターへ先に資金を投入しなければならない構造がよく分かります。
その影響はキャッシュフローにも表れています。
フリーキャッシュフローは446億7000万元(約1兆560億円)の流出となり、前年同期の188億1500万元の流出からさらに悪化しました。
AI需要は伸びている。しかし、その需要を支えるための現金支出も急増している。
ここが現在のAIインフラ競争の重さです。
純利益75%減をAI投資だけでは説明できない
Alibabaの純利益は104億4400万元(約2470億円)となり、前年同期の423億8200万元から75%減少しました。
ただし、「AIへ巨額投資した結果、利益が75%減った」と単純化するのは正確ではありません。
公式資料では、営業利益の減少に加え、投資売却益や保有株式の評価益が減ったことも純利益を押し下げたと説明されています。
営業利益も151億6100万元(約3590億円)と57%減少しましたが、のれんの減損や引当金などが含まれています。
AI投資が利益やキャッシュフローを圧迫していることは間違いありません。
しかし、純利益75%減のすべてがAI投資によるものではありません。
クラウドは利益増、AIアプリは赤字拡大

AlibabaのAI事業を理解するうえで、もう一つ重要なのが事業ごとの収益構造です。
モデル開発やQwenアプリなどを含む「AI Labs and Applications」の調整後EBITAは138億6100万元(約3280億円)の赤字でした。
前年同期の赤字は32億2400万元だったため、赤字幅は大きく拡大しています。
AlibabaはAI能力への投資や、Qwenアプリ利用増加に伴う推論コストを主な要因として挙げています。
ここに現在のAIビジネスの特徴がよく表れています。
企業に計算資源を販売するクラウド事業は利益を増やしている。
一方、基盤モデルを開発し、AIアプリを大量のユーザーに提供する側では、研究開発費や推論コストが膨らんでいる。
同じ「AI事業」でも、収益構造はまったく違います。
生成AIは利用者が増えれば自動的に利益が増えるビジネスでもありません。ユーザーが利用するたびに計算コストが発生するため、利用拡大をどう収益につなげるかが重要になります。
AI投資の採算を見る3つのポイント
今後のAlibabaを見るとき、全社の純利益だけではAI事業の状態を判断できません。
見るべきなのは、クラウド部門が今後も利益率を改善できるか、QwenなどAIアプリの赤字を縮小できるか、そして巨額の設備投資がいつキャッシュフロー改善につながるかです。
特にクラウド部門は現在、売上45%増に対して調整後EBITAが133%増と、収益性を大きく改善しています。
この成長が続けば、巨額のインフラ投資を回収する柱になる可能性があります。
一方で、AIアプリ側の利用者が増えても、推論コスト以上の収益を生み出せなければ赤字は続きます。
成長率だけでなく、その成長からどれだけ利益と現金が残るかを見る必要があります。
AI競争は「誰が利益に変えられるか」へ

これまで生成AIでは、モデル性能やベンチマークの順位が注目されてきました。
しかしAlibabaの今回の決算を見ると、次の競争軸がはっきりしてきます。
「どのAIが一番賢いか」だけではなく、「誰がAIへの巨額投資を利益に変えられるか」です。
高性能なモデルを作っても、それを支えるサーバーや半導体、電力、データセンターには莫大な資金が必要です。
さらに利用者が増えれば、推論コストも増えていきます。
AP通信も、AlibabaについてAI関連サービスの45%成長と純利益75%減、設備投資75%増を同時に報じています。
この数字はAI投資の失敗を示しているわけではありません。
クラウド需要は伸び、クラウド部門の利益も改善しています。
ただ、その成長を維持するために約1.6兆円もの四半期設備投資が必要になっている。
Alibabaの決算が示しているのは、AI競争が技術力だけでは決まらないということです。
これから問われるのは、巨額のAI投資をどれだけ効率よく売上へ変え、最終的に利益とキャッシュフローを残せるか。
AI競争は、モデル性能だけを見る段階から「資本効率」を見る段階へ入り始めています。です。



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