航空券を探し、レストランを予約し、ネット通販まで済ませる。
AIエージェントが描く未来はかなり便利です。
「来週の東京出張、予算5万円以内でホテルと新幹線を取っておいて」
「いつもの洗剤が安くなっていたら注文して」
と頼むだけで、人間の代わりにWebを操作してくれる世界が近づいています。
ところが、実際のには「AIによる自動操作お断り」のWebサイトが少なくありません。
最近ではAmazonがAIエージェントによる買い物をブロックする動きを強めており、Perplexityとは裁判にまで発展しました。AIが賢くなれば自然に何でも任せられるようになる、というほど単純ではなさそうです。
予約できないのはAIの能力不足とは限らない
2026年10月、MetaのMuseやChatGPTのDotsなど個人向けAIエージェントが、小売り、飲食、旅行などのWebサイトで操作を完了できないケースが増えているという報道がありました。
例えばYelpは、契約のない非人間トラフィックを認めていないと説明しています。
Delta Air Linesでも、第三者のAIエージェントが勝手に航空券を検索・予約できるような提携や仕組みが広く開放されているわけではありません。
さらにややこしいのが、「AIを禁止しているわけではないのに使えない」というケースです。
WalmartはMetaのMuseと提携しています。それなのに利用者からは、Museが買い物を完了できなかったという報告が出ました。
理由の一つが、人間であることを確認する画面です。
サイト側は悪意あるボットを止めるために、「あなたは人間ですか?」と確認します。
しかしAIエージェントは、まさに人間の代わりに操作しているプログラムです。
結果として、サイト側から見れば怪しいボット、利用者側から見れば正規の代理人という奇妙な状態が生まれます。Walmart側は、こうしたブロックは意図したものではないと説明しています。
AmazonではAIエージェントを巡って裁判にまで発展した

この問題を最も分かりやすく表しているのがAmazonです。
2025年、PerplexityはAIブラウザ「Comet」の中で、利用者の指示に従ってAmazonの商品を探したり購入操作を進めたりできるAIアシスタントを提供していました。
しかしAmazonはこれを認めませんでした。
2025年11月にはPerplexityに対して停止要求を出し、Amazon StoreからCometのAIエージェントを外すよう求めています。
Amazon側の主張はかなり明確です。
第三者のアプリが利用者の代わりにAmazonで買い物するのであれば、「AIであることを隠さず、Amazon側が参加を認めるかどうかを尊重するべきだ」という考え方です。
その後AmazonはPerplexityを提訴。
2026年3月には連邦地裁がAmazon側の主張を一定程度認め、PerplexityのAIエージェントによるAmazonへのアクセスを制限する仮差し止め命令を出しました。
ところが、話はそこで終わりません。
2026年8月、米連邦控訴裁判所はこの仮差し止めを取り消しました。
裁判所は、Amazonへ実際にアクセスしているのはPerplexityそのものではなく、「AIツールの助けを借りた利用者」と考えられるとして、Amazonがコンピューター不正アクセス防止法上の主張で勝てる可能性は低いと判断しています。
ここはかなり面白いところです。
人間がマウスをクリックする代わりにAIへ「これを買って」と頼んだ場合、そのアクセス主体は誰なのでしょうか。
人間なのか、AIなのか、それともAIを提供する会社なのか。
これまでのWebのルールは、こんな代理人が大量に登場することを想定して作られていません。
Amazonは「AI全面禁止」というわけでもない
ここで誤解したくないのが、AmazonがAIそのものを拒否しているわけではないことです。
むしろAmazon自身もAIショッピング機能を展開しています。
問題にしているのは、「誰が、どんなルールでAmazonを操作するのか」です。
2026年にはAmazonの事業者向け規約にもAIエージェントに関するルールが追加されました。
エージェントは自分が自動システムであることを明示し、人間の操作を装ったり、CAPTCHAなどのボット判定を回避したりしてはいけないとされています。Amazonからアクセス停止を求められた場合には従う必要もあります。
これは今後かなり重要な考え方になりそうです。
AIが人間そっくりに画面を操作できる技術よりも、

私はAIエージェントで、○○さんの依頼によって買い物をしています
と正規に名乗ってアクセスできる仕組みの方が重要になるからです。
一方でShopifyはAIエージェントに店を開こうとしている
興味深いのは、すべてのEC企業がAmazonと同じ方向へ進んでいるわけではないことです。
Shopifyは2026年10月、10億件を超える商品カタログをより多くのAIエージェントから利用できるようにすると発表しました。
特定企業との個別提携だけではなく、利用者が使うAIエージェントから商品を探し、購入につなげられる仕組みを広げています。
決済にはShop Payを利用し、最終的な注文には利用者の承認を必要とする設計です。
Amazonが、「勝手に店へ入ってきて買い物をしないでほしい」という方向に近いのに対し、Shopifyは、「AIが来るなら正式な入口を作ろう」という方向に動いているように見えます。
おそらく今後のECは、この二つの考え方の間で揺れるのでしょう。
サイト側が守りたいものはセキュリティだけではない
AIエージェントを止める理由というと、まずセキュリティを想像します。
もちろんそれも大きな理由です。
航空券の変更、銀行口座の操作、数十万円の商品購入などをAIが行うようになれば、誤操作が起きたときの責任は誰にあるのかという問題が出てきます。
しかし、それだけではありません。
サイト側にとって大きいのが「顧客との接点」です。
例えばこれまで私たちはAmazonへ行き、おすすめ商品を眺め、レビューを読み、セールを見つけ、Primeへの案内を見ながら買い物していました。
ところがAIに、

一番安い洗剤を買って
と頼むだけになれば、ユーザーはAmazonのサイト自体をほとんど見なくなる可能性があります。
企業からすれば、これは単なる自動操作の問題ではありません。顧客との関係そのものをAI企業に奪われる可能性があります。
旅行予約でも同じです。
AIが航空会社やホテルを横断して最安値だけを選び、そのまま予約すれば、会員制度、広告、追加サービス、上位プランの提案などを見てもらう機会は減ります。
AIエージェントを巡る争いの裏には、「誰が顧客の入口を握るのか」という巨大なビジネス争いがあります。
Webの門番は「人かボットか」から「何をするAIか」へ
この変化を象徴しているのがCloudflareです。
Cloudflareは2026年7月、AIによるアクセスを大きく、
Search
Agent
Training
に分けて管理できる仕組みを導入しました。
検索結果を作るためのクローラー、利用者の代わりにリアルタイムで操作するAIエージェント、AIモデルを学習させるためのクローラーを別々に扱います。
さらに2026年9月15日以降、新しくCloudflareを利用するドメインでは、広告を表示するページについてAgentとTrainingを初期状態でブロックし、Searchは許可する設定が採用されました。
これはかなり象徴的です。
これからのWebでは、「ボットだから禁止」ではなく、「そのAIは何をしに来たのか」が問われるようになります。
- 検索サイトへ掲載するためなのか。
- 利用者の依頼で商品を買いに来たのか。
- AIモデルの学習データを集めに来たのか。
同じ自動アクセスでも、サイト側にとって価値はまったく違います。
AIエージェント時代には「正式な通行証」が必要になる
現在のAIエージェントは、人間向けに作られたWebサイトを画面越しに操作する方法が中心です。
これはある意味、AIにマウスとキーボードを渡している状態です。
当然、うまくいかない場面もあります。
本当の転換点は、おそらくその先です。
AIエージェントがサイトの画面を人間のふりをして操作するのではなく、
「この利用者から、最大1万円まで購入する権限を与えられています」
「注文前には本人へ確認を取ります」
「この操作はOpenAIのエージェントによるものです」
といった情報を正式にサイト側へ伝える。
サイト側も、
「商品検索は許可」
「カート追加は許可」
「決済前には本人認証必須」
のように権限を返す。
こうした仕組みが整って初めて、AIエージェントは本当にWeb社会へ溶け込んでいくのだと思います。
AmazonとPerplexityの争いは、単なる一企業同士の揉め事ではありません。
「AIは人間の代理人としてどこまでWebへ入っていいのか」
という、これから何度も議論される問題の先行例です。
AIの能力だけを見ていると、「もうすぐ何でも自動化できそう」に見えます。
しかし現実には、AIが賢くなることと、社会がAIに仕事を任せることの間には大きな溝があります。
エージェント時代のWebに必要なのは、さらに賢いAIだけではありません。
安心して入口を開けてもらうための「通行証」の方が、案外重要なのかもしれません。


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